毒親への返報

毒親や虐待をメインに書いています。

笹井さん家⑤

普段着の笹井さんが入って来た。

「特に、用は無いんだけどさ」

「怪我したって」

「しょうがなく。家に帰る事を周りが勝手に決めるから、こうでもしないと」

包帯は、左手首に巻かれている。上手く切れなくて、大した傷じゃない。

ーーー沈黙。確かに、こんなもの見せられたって困るだけだよなぁと、呼んでしまった事を後悔。

「ごめん」

何のごめんなのかと笹井さんの顔を見ると、……泣いている。

涙って、いつ出るんだっけ。

痛いとか怖いとか、
悲しいとか寂しいとか?

「何が?」

「家に帰りたくないって一貫して主張しているのに、僕には何の力も無くて……、こんな事になって………」

「これで、また施設に戻れるかもしれない」

「そっちの、生活はどうなの」

「普通。家よりはずっとマシ」

「そうか……」

急に憔悴してしまった人を目の当たりにすると、反動で空元気が出てしまうのだろうか。

「大丈夫だよ。これ(左手首)だって抵抗する為。包丁の先が刺さったくらいだし」

左手首をクルクル動かして平気だとアピールすると、笹井さんは焦って制止する。

「駄目駄目、動かしちゃ」

痛いのは痛い。

でも泣く程ではない。


                (続く👻)