「ほんとに、用があった訳じゃな…」
「傷を、ーー」
僕の言葉を遮る様に、笹井さんは包帯に視線を落としながら。
「ーー負わなくてもいい様に、もう充分、傷付いているから、更に傷を増やさない様に、僕も稲村さんも、もう一度掛け合うから……」
稲村さんは、僕から大量の言葉を引き出した聞き上手なカウンセラー。
ーーー不安定な綱渡りの様。突然舞い込んだ逃げるチャンスに何も考えず飛び出し、しかし行動を起こしたからと言って現状を打開出来るという訳でもなく、綱に乗る足元はグラグラで落ちそうになりながら、安定する足場までいつまでも辿り着かない。
連絡先を渡された。笹井さんは「何かあったらいつでも電話して」と言って病室を後にした。
グラグラ、グラグラ。
もう駄目かと思った時、笹井さんの涙に気を取られている内に、
揺れが収まったみたいだ。
何だか疲れたな、取り敢えず寝ようか、
取り敢えず……………………………………………………。
施設に両親が来た。職員を加えての話の場は、滑稽なものだった。
病気の上の子の看病に忙しく、この子に寂しい思いをさせてしまった?
(自殺未遂などは)愛情不足からの、愛が欲しいという切実な訴え?
呆れる。
しかも、涙を流して、心を改めたと言っている。
こんな嘘に、大人はあっさりと騙されていく。
(続く👻)