その女の人は不思議で、数少ない言葉だけを使って、僕から大量の言葉を引き出した。
スッキリしたが、これだけは譲れない。
「家には帰らない」
一応、一人味方が出来た。両親に会いたくないという意思を最初から最後まで尊重してくれたのが、ここまで連れて来た看護師の、笹井さん。
あの日から、殆ど家に戻っていない。殆どというのは、子供の主張が全て通る訳も無く、施設を出され家に戻される訳だが、
間髪を容れず自殺を図り再び病院や施設へ。
非常に迷惑な子供なのだろうが、ここまでしないと〈家に帰りたくない〉という気持ちを理解しない大人は、僕にとって非常に迷惑だった。
自殺未遂で病院に運ばれ治療を受けている時、[あの人がいる病院]だった為、駄目で元々、「笹井さんはいますか」と聞いてみた。
「少し待っててね」と言われ、病室のベッドに横になる。
大怪我などしていないが、精神が不安定だと見做され、取り敢えず入院。
家に無理矢理帰すからこうなるんじゃないか、と納得いかない気持ちだが、さて、笹井さんを呼んだところで、
用事がある訳ではない。
会ってどうする。
忙しそうだったら、「久し振り。じゃあね」で終わろう。
扉を叩く音がして、直ぐ。
「深鳥(みどり)君!」
(続く👻)