お風呂の時間がいい。玄関の履き物が無くなるとバレ易いから、災害用にみんな寝室に置いてあるスニーカーを持って、それを履いて一階の浴室の窓から、
飛び降りた。
静かに、静かに、それでも出来るだけ早くここから離れたい。
ある程度離れたら、コソコソせず堂々と、公衆電話を探す。とは言え人気の無い道にポツンとある訳も無く、歩いたり走ったり、結局かなり明るい街中まで出てしまった。
焦る。
もう脱走はバレているだろう。
早く電話をしたい。でも勤務中で繋がらないかもしれない。その内に施設の人に見つかって連れ戻されるかもしれない。
焦っていた。仕方無く駅まで行き、逆に使う人がいなくて目立ってしまう公衆電話の受話器を取った。
小銭を入れて、メモに書かれた番号を押す。
[お願い、出て…………………………!]
ーーーただ家に帰りたくないだけなのに。
数人の人間の集まりの中で、一人を誰かがいつも見下していれば、伝染する様に他の人もその一人を見下す様になる。
普通に、何の疑問も持たず。
普通だから、変わる事も無い。
だからもう帰らない。お兄ちゃんがいるから両親は逮捕なんてされなくていい。嘘の涙なんて要らないから、ただもう僕を手放してーーーーーーー
『もしもし?』
(続く👻)