毒親への返報

毒親や虐待をメインに書いています。

不条理を映す鏡⑧

「大袈裟にしたくない」
「異常だよ、暴力は。そう思ってもいいと気付かせてくれたのは、矢沢さんだし」
「…………………」

両親の仲は冷めていた、兄弟はいない、という私の軽さとは違って、少なくとも矢沢さんには兄弟がいる。

〈警察〉なんてハードルが高い。
自分さえ我慢すれば家族が平穏でいられる、という思考。

だから一人で動けない。
だから。

「学校での変な噂は、私が消す。全校集会とかで発言すればいいかな。とにかく、何だろうな、異常なんだよこんなの。守ってくれない人をそこまで庇ってどうする、自分を守れるのは自分だけだったらーーーーーーーー、」

今度は私が切っ掛けを。

「警察に行こう」


矢沢さんは、玄関から一歩、踏み出した。


どうせ私達は、不条理の中で溺れている。

もがくだけで精一杯で、自分の事など考えられない。

その最中ふと、誰かが溺れているのが視界に入る。

自分の事は見えなくても、
その溺れた誰かを見て、胸が苦しい。


不条理は、鏡が映し出してくれる。


                (終わり)


               🌊 👻💦 🌊