「大袈裟にしたくない」
「異常だよ、暴力は。そう思ってもいいと気付かせてくれたのは、矢沢さんだし」
「…………………」
両親の仲は冷めていた、兄弟はいない、という私の軽さとは違って、少なくとも矢沢さんには兄弟がいる。
〈警察〉なんてハードルが高い。
自分さえ我慢すれば家族が平穏でいられる、という思考。
だから一人で動けない。
だから。
「学校での変な噂は、私が消す。全校集会とかで発言すればいいかな。とにかく、何だろうな、異常なんだよこんなの。守ってくれない人をそこまで庇ってどうする、自分を守れるのは自分だけだったらーーーーーーーー、」
今度は私が切っ掛けを。
「警察に行こう」
矢沢さんは、玄関から一歩、踏み出した。
どうせ私達は、不条理の中で溺れている。
もがくだけで精一杯で、自分の事など考えられない。
その最中ふと、誰かが溺れているのが視界に入る。
自分の事は見えなくても、
その溺れた誰かを見て、胸が苦しい。
不条理は、鏡が映し出してくれる。
(終わり)
🌊 👻💦 🌊