客室に、椅子に座らず立ったままのお兄ちゃんがいて、僕を見て直ぐ口を開いた。
「もう帰ってくるなよ、邪魔だから。お前がいると家庭が崩壊する。もう二度と騒ぎを起こすな。いいな、絶対、帰ってくるな」
そう言うだけ言って、さっさと施設を後にしていった。
直ぐ帰ったので驚いていた職員の人にも、言われた内容は話さなかった。無意味だから。
だって帰りたくないんだから。家族とは一生会わなくていい。きっとお兄ちゃんは僕の悪口を散々聞かされたのだろう。そうやって三人団結して、仲良く暮らしていけばいい。
さようなら。
高校卒業まで、施設にお世話になった。
僕よりもずっと重い理由で施設で暮らす子は沢山いる。心を開かず度々暴れていた子が、僕が出ていく時拗ねてしまったのが、切なかった。
実は、僕が高校生になってから再び兄が会いに来た事があって、謝罪をされた。
ターゲットが僕から兄に変わり、親の本性を知ったらしい。堪えて頑張って家を出たそうだ。
何だか申し訳無い。僕が虐待から逃げた所為で。
どうせ成り立たない家族だったのだろう。
無くなって良かったのだと思う。
働きながら、大人の一員として社会で生きていく。
孤独は感じていない。
僕は今、毎日家に帰っている。
笹井さん家に。
「ただいま」
「おかえりー」
(終わり)
🎵🏠~👻